専門分野
SPECIALIZED FIELD

TOP  / 専門分野

物忘れ外来

はじめに

わが国の高齢者率は急上昇するばかりで、2007年に超高齢社会へと突入しました。超高齢社会とは、65歳以上の人口の割合が全人口の21%を占めている社会を指します。
また近年少子高齢化といわれるように、65歳以上の高齢者と14歳以下の若年者の人口比も、2000年を境に高齢者の比率が高くなってきており、今後もその傾向が持続するものと予測されています。

それらを考えると高齢者が増えるに連れ、必然的に認知症患者数も増加し、少ない家族で介護せざるを得ない状況が予測されます。従来のような、認知症高齢者は家族が世話をして当たりまえ、という考え方は無理があり、高齢者を地域全体で支える地域包括ケアシステムの構築が重要です。

つまり単純にこのことだけでも、今後の認知症対策がいかに重要であるかわかっていただけると思います。 大分県もその施策の方向性として、保健・医療・福祉の密着した連携に基づく認知症発症の予防が重要であるとしており、また認知症の早期発見、早期治療に力を入れると明言しています。

保健・医療・福祉のなかで、当科の認知症外来としては医療、その中でも様々な検査法を組み合わせ総合的に判断することにより、認知症の早期発見、早期治療に貢献できるものと考えます。

早期発見、早期治療の意義

認知症=治らない病気、と思われている方も多いかと思います。
それ故、診断やその後の治療がおろそかになっている場合が多いように感じます。
「認知症」とは病気の名前ではなく、さまざまな原因により、「知的機能の低下」をきたした状態のことを指します。

つまり一見「物忘れがひどくて、ぼけたなあ」と思ったとしても、正常範囲の、いわゆる年齢相応の記憶障害も含めて、その原因には様々なものがあるのです。
まずは、年齢相応の物忘れと認知症をしっかり鑑別していきます。その結果認知症だったとしても、認知症の原因としては、正常圧水頭症や甲状腺疾患など、治療により改善または治癒が見込める疾患が多数存在します。また軽度のうつ状態や日常的な刺激、活動の不足による廃用性の認知症の数も少なくないと思われます。

つまり「治る」認知症を適切に診断し、治療することが重要です。
次に、認知症の代表的な疾患であるアルツハイマー型認知症では、その進行を遅らせることが出来る薬が2000年に発売されました。
この薬は、より早期に投与することにより、半年~1年ほど進行を遅らせることができると報告されています。

「たった半年~1年かあ」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、それにより、
1.患者さんの生活の質が保てる
2.患者さんの自己の決定権を尊重できる
3.治療費が削減できる
4.家族の介護負担が軽減でき、余裕をもつことができる


などさまざまな利点があります。以前は1種類だけだった抗認知症薬も、現在では4種類から効果や副作用をみながら選択できるようになっています。

当科での認知症診療の特徴

当科では、多面的に認知症を診断しています。

まず時間をかけた問診が、適切な診断をする上で最も重要と考えます。
次に記憶障害などの知的機能を評価する神経心理学的検査を組み合わせながら行っています。広く行われている改訂長谷川式認知症評価スケールのような簡易のものだけではなく、同じ簡易検査でも前頭葉機能評価用としてFAB、もっとも詳細な検査であるBADSと呼ばれる検査や、言語記憶を中心に評価できるSTM-COMMET、詳細な記憶検査法であるWMS-R、代表的な知的機能検査法であるWAIS-Ⅳなどがあります。

また早期診断に有用な画像検査である頭部MRIや脳血流を測る脳血流シンチグラフィ、レビー小体型認知症の鑑別に有用なMIBGシンチグラフィやDATスキャンなど必要に応じてを行っています。
その他脳波や心電図、血液検査などにより、身体疾患を調べ、「身体疾患による」認知症を鑑別します。

治療としましては、記憶障害や言語障害などの「中核症状」と不眠や興奮、抑うつといった「周辺症状 (Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia:BPSD)」の二つが治療の対象となります。

「中核症状」に対しては、ドネペジルなどの抗認知症薬を用います。また、意外な薬が認知機能に影響していることがありますので、内服している薬の見直しを行います。適切な睡眠覚醒リズム、趣味や他者とコミュニケーションを楽しむことなどが認知症予防に効果的と言われており、日常生活の見直しも行っていきます。

「周辺症状 (BPSD)」に対しては、薬物療法の効果が期待できます。
不眠や睡眠リズムの障害は、家族の介護負担を増加させますが、適切な薬物療法や介護サービスなどを用いた環境調整、1~2週間といった短期入院による睡眠リズムの矯正によってかなりの改善が期待できます。認知症の方はREM睡眠行動障害という睡眠障害や高齢発症てんかんなどしばしば合併していますので、そちらの治療によって患者さんやご家族の負担を軽減できることもあります。
「周辺症状(BPSD)」のコントロールにより患者さんやご家族の生活の質の向上が期待できます。

当科での研究

リチウムがアルツハイマー型認知症の病理的変化(老人斑形成や神経原繊維変化)を抑えることという報告が徐々に増えています。当科ではリチウムの臨床応用を探る目的で、血液中リチウム濃度と認知症発症や認知機能との関連を調査しています。 「大学病院は敷居が高い」と思われている方がいるかもしれません。しかし実際はそんなことはありません。

先ほども書きましたが、当科では早期発見、早期治療を重要視しています。
「なんだか最近もの忘れがあるなあ」と本人や家族が気になった段階で、当科の認知症外来の予約をしていただけたらと思います。